12年連続自殺者が3万人を越える日本社会  何が問題なのか

                                      働く者のメンタルヘルス相談室

                                                      伊福 達彦

このテーマを次の3つの視点から考えていきます。

 

1.自殺問題を世界と比較する。1年ごとでなく12年を全体として見る

2.何が起こったか 正社員縮小・派遣請負拡大に大転換の実態を見る。

3.リストラ終了後も3万人代の自殺が何故続くのか

 

(1)世界と比較し、日本の自殺の特徴を見る

 

  1.OECD諸国平均と比較すると、日本の自殺は変動が急激で、社会、経済、雇用  の変動に相関している。(図1)

  日本の自殺には大きな波が二つある。

  一つ目は第二次石油危機である。

  減量経営が大企業中心に強行され、過剰雇用吸収の出向、配転が大規模に遂行された。

  二つ目は今に至る自殺3万に時代である。

 2.OECDと比較して全体として自殺率が異常に高い

 

 3.20代から60代までの自殺者の合計は平成21年では25974人、全体の79%を占める。(図2)

 4.非雇用者と無職者の自殺の合計は全体の85%を占める。無職者の大半が働き盛りということになる

 5.日本では働きながら被雇用者として9159人が自殺し、ほぼ同数の人が働き盛りでありながら無職者として自殺していることになる。

 

(2)日本に何が起こったのか

 

 正社員大量解雇(リストラ)は例外でなくなり恒常化した

 

 前年より50万人に以上減った年

                    減員数

1998年     106万人

1999年      58万人

2002年     154万人

2004年      64万人

                      総務省統計局

 

(3) 政府・行政・財界が正社員縮小、派遣請負拡大に舵を切った

1.1993年     平沼レポート(細川内閣) 規制緩和を要求

2.1995年     日経連「新時代の『日本的経営』」を発表

             雇用の柔軟化/流動化を提言 正社員の比率を下げる

         村山内閣『構造化改革のための経済社会計画」『高コスト構造の是正」

      

3.1997年     橋本内閣、高コスト構造の是正を目指す。縮小財政が大型倒産            を誘発

             三洋証券、山一証券、北海道拓殖銀行の倒産

            この年健康保険は1割負担から二割負担になる。

5.2004年     それまで例外であった製造業への派遣が一気に解禁された(小            泉内閣)

4.1999年     労働者派遣法は大幅に規制緩和され原則自由となる。(小渕内            閣)

 

 

(4)労働行政がリストラを支える

 経営側が強制ではありません。本人も納得していますといえば、強迫的退職も通常退職 扱い。京都の○○洋さんの場合当時の常務からの聴き取りで合意があったと判断されい わば加害者がやっていませんと言えばそれで、加害者が無罪になる仕組みである。労災 行政の現場では今なおこのやり方がまかり通り、経営側の証言は100%採用し被災者 側の証言採用は0%が当たり前となっている。

 

 (5)大リストラの先駆けはパイオニアである

 93年12月業績の悪い50代管理職を解雇と発表 35名の課長クラスが指名解雇の 対象であった 勧奨を拒む者は解雇あるのみだ(創業者の2男副社長)

 35人のリストアップに関しては、人事部が50歳以上の課長級以上の管理職330人

 の人事評価をすべてチェックし、ABCDEで言えば、4,5年にわたってDとEの続 いている人を選び出した。

 Yさん(57歳)営業本部付き参事(部長待遇)の場合

 上司「Yさん、早速ですが来年1月30日付きで退職してもらいます。これは会社が決 めたことなので、いかんともしがたいと思います。」「退職勧奨は拒否できないと聞い ています」Kさん(58歳)品質管理部副参事(次長待遇)

 「家内が肝臓を悪くして入院中のです。主治医から長くはないと言われています。」「そ のうえクビを通告されて自殺したいしんきょうですよ」

 この事件は小説になっている高杉良「指名解雇」講談社文庫

 

(6)ブリジストン大リストラは一般社員を対象にした

   ブリジストン 3462人 大リストラ

 

  1999年3月23日ブリジストン社長室で、勤続40年の、もと管理職 野中将玄  三さんが、当時の海崎社長に「私も腹を切るから、社長も切れ」と迫り、自ら割腹し て果てた事件があった。

  ブリジストンでは海崎社長の下で94年から過酷なリストラが強行されていた。5年 間で3462人もの首を切った。

 野中さんも役職定年、小会社移籍、賃金半減に加え前年の秋頃から数回にわたり退職勧 告を受けていた。

  野中さんは宣言する。

 「私はすくなくとも、ボロ切れを屑籠に捨てるがごとき、従業員の扱い方に、子羊のご とく従順でなきことを示す覚悟を決めた。誰かが鈴をつけるべきであり、一刻も早く、 ブリジストンに明るさを強力に復活させるべきだ。最前の方法は、全従業員の大多数が 期待し、幸になる、海崎社長道連れの憤死だ。次策は、従業員の基本的人権である働く 権利、生きる権利を尊重した海崎社長の方策転換を約する諫言死だ。」

 1999年3月ブリジストン社長室で割腹自殺

  ブリジストン 3462人 大リストラ

 労働者の誇りを奪う大リストラは自殺を急増させた。

 大リストラ企業は大事故を起こす。JR西日本や日航、ブリジストン・ファイヤースト ン、ブリジストン黒磯工場の大火災をみよ)

 

当時50歳代でブリジストンを辞めたAさん

なんでブリジストンを辞めたのかと聞くと

優秀な技術者だったので今の会社(3人だけの会社)に引き抜かれた

問:すぐ給料不払いとなり、大変だねと言うと

答:失礼な質問をするな。もんだいない

ブリジストンのリストラ被災者に共通する事

1.プライドが高く辞めた後もブリジストンの社員気分が続く

2.企業を横断する連帯に関心が無く、我が企業を何とかしたい

3.会社への忠誠心が強く、まるで江戸時代の藩主と藩士の関係。諫死とは主君をいさめる為自殺するという意味

子羊のごとく従順に首になる

自分の失敗や会社への隷属性を頑なに否認する傾向

奇襲攻撃を受け、包囲殲滅される

 

(7)リストラの手口

まずは自尊心を傷つけ自暴自棄にさせ「辞めます」と言わせようとする

次に過去の失敗に対して懲戒に値するかのように思わせる

 

 1999年7月リストラ宣告を受けた中森勇人さん(36歳)の場合

1.「君にとってあまりいい話ではないのだが」「今日はつらい話をしなければならない」

2.「君のやってきた仕事は会社にとってマイナスなことばかりだから」

3.「君は信頼できないから上司として責任を取れない」

4.「君にしてもらう仕事はこの会社にないから」

5.「君には十分チャンスを与えたつもりだ」「チャンスはもうない」

6.「身の処し方を考えてくれ」

7.「辞めろとはいっていない、君の身の処し方を考えてくれればいいのだ」

8.「今の仕事が君に向いていない」

9.「早く辞めて楽になったらどうだ」

 

最後の手はリストラ部屋

 リストラ部屋に移す

 人員調整室(リストラ部屋)に4人が移された。全員元の部署の机はかたづけられなくなった

「会社に来なくて良いから仕事を探しなさい」「君の仕事は転職先を探すことです」

                         中森勇人著「ザ・ リストラ」KKベストセラーズ

(7)リストラと自殺

 1998年1月から自殺未遂を繰り返した、○○洋さんの場合

 1997年12月31日退職。退職金2500万円。

 30年以上勤務し700万から800万の給料を得ていた

 さらに雇用保険は10ヶ月もらえる予定だった

 仕事が生き甲斐であった○○さんにとって仕事と誇りを同時に奪われた状態では生きて いけなかった。うつ病による自殺未遂が繰り返され、高次脳機能障害となる。フランク 永井さんと同じ状態である。10年後死亡

 1998年12月23日うつ病と高次脳機能障害を併発実際に強迫したのか、被災者の 誤解を放置したのか、当人が死亡し当時の会社側の説明しか残されていない。

 平成9年12月再び退職勧告がなされた。被災者が、就業規則第2節懲戒の適用をおそ

 れ、脅迫的退職と誤解してもむりがない。

 「即答で同意をしました」は、追い込められた被災者の状態を表している。屠殺場に引 き出された羊のようだ。

 

  リストラ時代の在職死(自殺))

九州カネライト1999.12.15死亡 49歳、うつ病、縊死

 

妻に4日「もうめちゃくちゃだ。毎日毎日残業で休みも取れない休みでも夜中に呼び出しの電話がある」と言っている。06.4.12福岡地裁勝訴 

 

鴻池組 51歳 1998.1.22排ガス自殺

うつ病 度重なる変更協議、赤字の押しつけ、午前7時に出勤、帰宅は深夜2001.5.11仙台地裁和解、労災も認定工事所長

 

富士電機E&C 縊死 遺書あり1999.8.01

44うつ病名古屋地裁H18.1.18判決原告敗訴1999.8.16

 

佼成病院 44うつ病  投身

ホームページ有り、遺書あり 労災確定、民事敗訴、高裁へ敗訴最高裁で和解

(中原利郎さん)医師

 

(8)リストラと自殺まとめリストラ被災者のストックが自死を引っ張り上げている(図   4)

 

1.1994年から急速に増大した自己破産は2003年がピーク

 リストラ累計と自己破産者の推移(図5)

2. 正社員の住宅ローン比率は高い。1980年代後半のバブル経済期に高騰不動産で 住宅ローンを組んだ人には大きな打撃であった

 リストラ正社員はある程度耐える力が有る。5年、10年経てば体力消耗はおおきくな る。

3.リストラ待機者の500万人を超すストックは、これからも長く大量自殺時代が続く

  事を、おしえている。

4.リストラ被災者救済法で生活、就職、うつ病治療等を一つの窓口でサポートする仕組

  みが必用である。

5.自殺者の過半を占める無職者とは、リストラ無職者だった。

 1950年代半ばから40年も続いた日本型システム(日本型雇用関係)。終身雇用制 ・年功賃金・企業別組合。1990年半ばこれらのシステムが突然崩壊した。政府、財 界は正社員縮減、派遣・・請負へ転換した。荒々しいリストラが職場を吹き荒れた。

6.1998年、3万人の死者が警告を発した。日本の自殺の急増は強迫的リストラで名 誉を 傷つけられた男たちの無言の抗議であった

 

(9) リストラ終了後も3万人代の自殺が何故続くのか

 正社員と非正規労働者数の推移(図6)

五〇〇万人のリストラ正社員はどこへ行ったか

 

完全失業者に対する雇用保険受給者の割合(図7)

失業手当をもらえる期間がどんどん短くなっている。勤続10年未満90日20年未満120日

 

教員の精神性疾患による病気休職者数の急増(図8)

 

貧困が自殺を上乗せさた

50代自殺者の56.4%が経済生活問題が原因(平成21年)図9

50代の貧困:被雇用者自殺者の4割、無職者の6割の原因 

住宅着工数減少と共に自己破産も減少

 

 

 

 (10)まとめ

 1.OECD諸国平均と比較すると、日本の自殺は変動が急激で、社会、経済、雇用の 変動に相関している。

 6日本の自殺には大きな波が二つある。

 一つ目は第二次石油危機である。

 減量経営が大企業中心に強行され、過剰雇用吸収の出向、配転が大規模に遂行された。

 二つ目は今に至る自殺3万に時代である。

 

 2.OECDと比較して全体として自殺率が異常に高い

 3.20代から60代までの自殺者の合計は平成21年では25974人、全体の79%を占める。

 4.非雇用者と無職者の自殺の合計は全体の85%を占める。無職者の大半が働き盛り

   ということになる

 5.日本では働きながら被雇用者として9159人が自殺し、ほぼ同数の人が働き盛り でありながら 無職者として自殺していることになる。

 8.無職者と被雇用者の自殺が異様に増大した。自殺者全体に占める無職者+被雇用者 の割合全体の85%を占める

 

 7.日本の自殺の急増は強迫的リストラで名誉を傷つけられた男たちの無言の抗議であ つた

 9.リストラ被災者、派遣切り失業者、過重な職場環境が自殺3万人の原因であった。

 

 

注:講演会などで失業率と自殺率の相関を過去にさかのぼって強調する偉い人がいるが、

 失業率と自殺率のまとめると次のようになる。

1.失業率と自殺率には直接の相関関係は認められない

2.ヨーロッパ、アメリカの方が、失業率は高いが自殺率は日本より低い。

3.失業率と自殺率は目盛りが1000倍違う

4.失業、貧困、自殺という図式は世界で当てはまらない。

 

図1

 

 

 

図2

 

 

 

 

 

 

 

図3

 

図4

 

 

 

 

 

 

 

図5

 

図6

 

図7

 

図8

 

図9